ジャコ萬と鉄 (1949)

梶野悳三作『鰊漁場』より取材したもので、脚本・演出の黒澤明と谷口千吉の共同脚本で、演出も谷口千吉が担当、カメラは瀬川順一、いずれも「銀嶺の果て」以来の顔合せである。

監督: 谷口千吉
出演:三船敏郎、月形龍之介、浜田百合子、久我美子、藤原釜足、進藤英太郎

ジャコ萬と鉄 (1949)のストーリー

雪がまだらについた岩をしぶきをあげて波が洗っている。北海道のにしんの漁期も近ずいたある漁場、出かせぎ漁夫の群が集ってきた。樺太から裸で引揚げてきた網元九兵衛(進藤英太郎)の初の大博打がこのにしん網にかけられていた。よそよりも給料を値切ってかり集められるだけの漁夫を雇ったが、その中に片目のジャコ万(月形龍之介)がいた。九兵衛は引揚げのときジャコ万の舟を無断で乗り逃げしたという、すねにキズもつ身だった。九兵衛は金でカタをつけようとしたがジャコ万は血の涙を出す泣き面を見るまではガンとして動かなかった。番屋では他の漁夫と乱闘騒ぎはする。仕事もせず一日中寝ているばかりでも九兵衛は口出しさえ出来ない。そこへ死んだとばかり思っていた息子の鉄(三船敏郎)が帰って来た。母親のタカ(浜田百合子)は泣いて喜び、九兵衛もホッとしたが、治まらないのは相続出来なくなった姉夫婦だった。封建的な九兵衛の時代的な相違も、鉄の帰宅によって漁夫との折衝も何となくしっくりと行くし、何といっても若い鉄にはかなわない九兵衛は口にこそ出さないが心から喜んでいた。待望の南風が来た日、元綱が下され始め起し舟が網を張りながら沖に出ていく。九兵衛のごうよくは相当なもので、人づかいの荒いこと、それに比べて給料の安いことから、雇漁夫がストライキをおこした。そこににしんの群が来た、九兵衛にとっては生死の問題でもあり、土間にはいつくばって頼んだがきき入れられなかった。その時、今まで病気で役にたたなかった大学(松本光男)が「日本食糧事情のために」とヒョロヒョロ立ち上った。その言葉に漁夫たちも立ち上った。こん身の力で網を起す漁夫、男も女も子供もブッ倒れるまで働いた。浜では元綱をオノで切ろうとするジャコ万と鉄が上になり下になりオノを奪い合った。成程にしんを目の前にして網ごと流されたら九兵衛は血の涙を出すに違いなかった。そのドサクサにだれも気づかぬ間に病身の大学はこときれていた。鉄は絶叫した「親じも泣くが山ん中でヤン衆の帰りをまっているお袋やかかアやガキも泣くぞ。それでも切るならおれを殺せ!」ジャコ万の手からオノがはなれた。網を起す漁夫にまじり鉄もジャコ万も気狂いのように働いた。--漁期も過ぎた--喜々として散っていくヤン衆、コッソリと去るジャコ万の姿が見られる。姉夫婦に漁場をゆずった鉄もまた旅仕度だった。

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